19-11.イノベーターの条件

リーダーの特質
「イノベーションの作法」という本を随分前に、読みました。ナレッジマネジメントの野中郁次郎と勝見明の著書です。この本は、過去の常識に捕らわれずブレークスルーによりイノベーションをした事例をいくつもあげて、そこに流れるものを整理し体系化しています。
ケーススタディとして、今思うと少し古くはありますが、マツダロードスター、サントリー伊右衛門、北の屋台、近大水産研究所クロマグロ完全養殖、新横浜ラーメン博物館などがあがっています。ここでうまくいくリーダーの特質として把握できることは、
- 情熱をもつ
- 新しい発想をもつ
- 組織をつかう
- 諦めない
ということです。
とにかく、何かを成し遂げた人の仕事の仕方は生半可ではありません。すべてを仕事に集中し、ありとあらゆる角度から考察し、新しい価値を生み出します。
何かを決めていくきっかけは、必然のこともあるし偶然のこともありますが、ぶれない情熱から生まれる気迫がそれぞれのケースにはみなぎっています。
新(新しいタイプの意)イノベーターの条件を著者は、
- 真・善・美の理想を追求しつつ、清濁併せのむ政治力も駆使する
- 場づくりの力を持つ
- ミクロの中に本質を見抜く直観力とマクロの構想力をもつ
- 論理を越えた「主観の力」を持ち「勝負師のカン」を磨く
といったことをあげています。
特に清濁あわせのむ政治力やマキアヴェリ的なリアリズムに注目し、また個人の主観や直観、感情、勝負師のカンといったノイズ的なものが重視されるとして、分析至上主義に決別をという文脈になっています。
もちろん、カンは背景には失敗したり、成功したことによる経験や学習により養われるものですが、それらについて必要十分な分析を行ってきた結果生まれるものだと思います。なので、全く分析的アプローチを行わないことではないと私は理解しています。
ただ、戦後日本が復興したときの経済発展は、松下(パナソニック)さんにしても盛田(ソニー)さんにしても、あるいは稲盛(京セラ)さんにしても、本田(ホンダ)さんにしても、そして村田(村田製作所)さんにしても潮田(LIXIL)さんにしても、そして伊藤(イトーヨーカドー)さんにしても、安西(東京ガス)さん、池谷(東京製鉄)さん、江副(リクルート)さん、飯田(セコム)さんにしても、時代背景は大きく影響したものの、皆多かれ少なかれここであげた条件をもった新イノベーターであったのだと思います。
そののちに、MBA的なマーケティングや競合分析を主体とした商品、ものづくりが跋扈(ばっこ)するようになり、何かを生み出すときの原点から乖離したものづくりが行われるようになってきたのではないかという仮説が著者にはあるのでしょう。
リーダーの牽引と組織マネジメントのバランス
確かに分析的手法だけでビジネスが成り立つわけでもなく、成功するリーダーやイノベーターの条件を満たさないトップがいるビジネスはなかなか成果をあげられないということを、私たちは現場で毎日のように見ています。
- 情熱をもたない
- 新しい発想がない
- 組織をつかえない
- 諦めてしまう
という経営者の方々です。
彼らのビジネスは、NO2や組織に支えられてなんとか維持できているものの、トップがそれでは早晩ダメになることは明らかです。
こうした人達に共通することは次のことです。
- 唯我独尊である
- 感動しない
- 組織を動かせない
- 移り気である
そもそも、ビジネスはシャープで、リーンで、きれいなかたちをしていて、論理的で、ロジカルで、モデルに依存して、かたどおりに行われているものではありません。
一定のルールやフレームワークはあるものの、いつもどろどろしていて、トップの戦略や異能のスタッフのなかから生み出されています。大きな組織にはたくさんの異能の人がいて活かされていないことが多くあります。
分母が大きい分だけ可能性は高いですが、中小企業にはそうした人たちがそもそも少ないのと、分母が小さいのでやはりトップが切り開いていかなければならないのでしょう。いずれにしても、科学的な分析手法だけではうまく成果をあげていくことができない代物なのだと思います。
著者も13のケースをあげて整理をしていますが、他のありとあらゆるケースで成功したケースを分析してみると、ここであげた条件をほぼクリヤーしていることが解ります。
ただ、トップがイノベーターで彼らに依存すれば事業は成功するのか、という疑問もあります。トップがトップとしてイノベーターの条件を満たしつつ、分析的アプローチも含む組織マネジメントをしっかり行うことで組織も機能し従業員の力を得て成果を挙げることができると考えています。
いずれにしても、私も今の仕事での戦略構築や仕事の進め方について疑問をもち、常に変革をしてきましたが、まだまだ突き詰めていない、画期的なアプローチやサービスを開発しなければならないと強く認識できた機会ではありました。
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