[コラム]季節と決意

心の底から生まれる喜び

5月はとても爽やかです。いままで我慢してきた自然たちが、温かな日差しのなかで羽を伸ばす季節がやってきました。

緑はほんの少し春のなごりを黄色く残しながら、新しい生命の息吹を伝えます。木々の境界線から伸びる、灰色の殻をむいた空は、輪郭をまだはっきりとはしないままに、雲を織り込みながら、ほんのり青く澄み渡り、本当の空の色はこうだよと教えてくれます。

そんな景色からから生まれた、身体を通りすぎていく空気のながれは、初夏の草の香りがします。文明に染まった人間が便利を享受できることよりも、生きていることだけを喜べる瞬間です。

心の底から生まれる喜びは、どこからやってくるのか判りません。すべてから解放され宇宙と一体となる時空が、私を包み込みます。穏やかな温かさとやわらかい空間が、安心をくれるとともに勇気の湧き上がることを実感できます。

歩みを止めず弛緩せず

人は何のために生まれ、何のために死んでいくのか。そうした終わりのない葛藤からも離れることができます。

しかし、我に帰れば私たち人間は、強い意志のうえに生きていかなければなりません。瞬間に過ぎ去る今と未来のために自分達がつくりだしてきた現在と、そして、未来の自分に勝ち続けていかなければなりません。

宇宙の営みからすればほんの小さな出来事や小さな抵抗ではあるけれども、生きた意味をもつために、来世につながるひとときの終焉を迎えるために、私たちは自然を感じながら、しかし歩みを止めず、弛緩せず、人生の季節をのりこえ続けていかなければならないのです。

安らぎと覚悟、愛(め)でる季節と、乗り越えなければならない季節。

私たちは、その間をいつも行ったり来たりしながら、これからもずっと生きていくのだと思います。[石井友二]

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